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一般財団法人北海道河川財団会長 北海道大学名誉教授(15代総長・放送大学名誉教授(5代学長))
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道総研理事長 工学博士 丹保憲仁(たんぼのりひと、TAMBO, Norihito


北海道庁の各部に所属してそれぞれの分野での仕事に特化していた22の研究所を統合した総合研究機構が平成22年に発足して以来、道民のために力を合わせての仕事を進め、これまでの一期の5年をかけて一段ずつ着実に態勢を築いてきました。「少し広めに」「少し長い視点で」を合言葉に、1,150余人の所員は、お互いを知り、助け合って「総合研究機構」の文化を作り進めてくれた事を喜んでいます。


地方独立行政法人の一期は5年となっています。第一期はあと3か月を残すのみになりました。5年間の経験を土台に次の25年をどのように迎えるかを、10年先の三期までをにらんで、道総研本部と6研究本部の皆さんが連携して一年以上の月日をかけて議論し、「道総研における研究開発の基本構想」としてまとめてくれました。北海道の研究者自身が自分たちの向かう方向を総合的に描いて公にすることは、おそらく開道100年以来の画期的なことと思います。


 これから問題に対処していく際に、長期・中期・短期に分けて事柄を見ていくことが大切であると思います。46億年の地球の歴史、19万年のホモサピエンスの歴史がおそらく我々が考える一番長い時間スケールかと思います。原子力発電の可否の議論の際にも40年の軽水炉型原発の寿命と10万年の活断層のリスク議論の不整合、廃棄物保存の10万年の議論の扱いなど我々は時間スケールを極端にちがえた事柄を考えなければ日々を暮せない処に居ます。リスクという概念一つをとっても、どのように考えるかの仕切りは容易ではありません。私は日本の環境工学系の最初の学科を作った一人ですが、公害問題が激化した時代の環境の質、例えば河川水質は不純物が少なければ少ないほど良いとして水質制御が行われてきました。特に蓄積性の微量汚染物質が問題になってきた1980年代以降は、規制基準値は限りなく小さな値をとり、環境を基準値以下にするという0側への不等号的な操作が常識となってきました。しかしながら、赤潮・青潮の発生で困難を極めた瀬戸内海や閉鎖型の内湾のリン・窒素などの値が陸域の廃水処理の完備で小さくなり、その結果水域の栄養塩の不足によってノリや魚の漁獲量が低下してしまって、しかるべき値にまで戻す必要がありそうだという議論まで始まっています。複雑な自然生態系をある状態に保ち続ける事は、人びと(産業)の要求を、触らないことを何とか達成しようと考えてきた環境保全の古典的考え方とは異なるものです。生態系の管理などといっても、資源をとりすぎないように、或いは増えすぎないようにする、獲物の個体数管理を考えることで精いっぱいです。


いま世界の人口は70億人なろうとしています。しかも人類始まって以来の最も速いスピードで増加し続けています。1700年代中葉ころ、化石燃料を使うことを覚えて、近代文明が本格的に動き出して僅か300年弱のことです。頼りの化石燃料も原子力用のU235もあと100年もつかどうかは怪しく、地球はこの先どれほどまでの人類を養えるのかが大問題になります。カナダのリースとワケナーゲルの提唱したエコロジカルフットプリントといった直截的な環境容量(動的概念が含まれていないのが残念ですが)の推定値からみて、私は60億人ぐらいが、現代水準の生活をして、四海波静かに生きていくのにやっとの数字ではないかと考えています。日本人は12700万人にまで増えましたが、これから急速に人口を減らします。明治維新までに三つの島で200年にわたる営々たる努力の末に、自然エネルギーで暮らせたのが3千万人であり、その後加わった北海道に科学技術の進歩が加算しても、5千万人位がこの島で無理なく自然に暮らせる数値ではないかと思います。モネ船長のノーチラス号のような世界が広く広がってくるともう少し大きな数字が期待できるでしょう。世界も同じことで、100億人を超えた地球は無理でしょう。


グローバル化の果てに世界が平均化してくると、地球はいずれ総人口を減らさねばならない局面に突入するでしょう。わが日本はたった150年で西欧を追って近代文明の先端まで来て、人口一億人超の大人口で、世界屈指の経済大国となり、やがて近代文明発祥の地西ヨーロッパと並んで成熟過程にはいり、高人口密度と過少資源の故に成熟から縮小過程にまで入ってしまい、近代文明の遷移過程の最先端に位置してしまいました。縄文時代以来2千年余中華文明圏の周辺にいて、英国がヨーロッパ文明圏の周辺にいながら近代のデファクトスタンダードを作り200年世界をリードしたように、7世紀初頭頃から日本は独自性を少しずつ主張しつづけ、18世紀にはアジアでは西欧近代文明にいち早く身ぐるみ飛び込んで近代化を成し遂げ、ついには近代産業社会の成熟と減速を世界最初に経験する大国になりました。日本人は縄文時代以来、初めて世界史の先端に来てしまいました。自覚するか否かを考えているゆとりはないようです。近代の次の文明の創成者となって21世紀後の世界のデファクトスタンダードを、18世紀のイギリスが近代のために造ったようにできるかどうかが問われています。隣に中華大文明圏の夢の再現を語る大国がありますが、この国も21世紀後半に至るやすぐに近代の卒業と人口・活動度の急減少を伴う成熟過程を踏むことになるでしょう。英国が1800年代にヨーロッパ文明に続いてアメリカ文明に及ぼしたような近代化の先駆的挙動を、日本が21世紀後半に中華大文明圏の成熟に影響を及ぼすことが出来れば、日本人は21世紀後のアジアと世界のポスト近代の先駆的文明形成者として、価値ある民族としての尊敬を得つつ平和に生きていけると思います。日本人の正念場です。


そのために日本人は世界に先駆けて、困難な近代文明社会からの撤退作戦を、日々の活力を失わずに進めなければなりません。糧食・弾薬尽きて多くの餓死者を出して退却したガダルカナル戦の様な事を繰り返すわけにはいきません。力を溜めつつ、戦いつつ次の交戦ラインにまでひかねばなりません。その際に最後にどうするかの算用なしでは、本土決戦一億玉砕になり、沖縄戦の惨禍の繰り返しになります。幸いなことに、先発縮小国の日本はまだ周辺に成長を是とし、使い慣れた近代の生産・消費システムの拡大をよしとするBRICs諸国があります。暫時は、生産拠点と市場をこれらの国におかせてもらって、成熟領域の日本国はパラサイト的に活動度を維持していくことになるでしょう。今言われている、グローバル化の一面です。然し中国などの発展途上国は、この世紀の半ば以後に至り、近代の飽和と続いての縮小局面に入った時に、いま日本が生産拠点と消費マーケットのかなりの部分を依存している、近代成長を求めているBRICs(周辺)諸国はもうありません。途上国の成熟後の日々は日本の現在の状況をはるかに超えた困難と巨大な量を持ったものになると思います。日本が150年かけてたどり着いたところに100年足らずで到達するわけです。ヨーロッパは300年かかけて成熟社会になりました。 


近代の次に来る文明・社会構造の懐胎とそれに至る道筋を高い技術力・文明度のもとで、しっかりと戦力を維持しつつその変遷縮減を着実に進行させて行く過程の、時間設計が必要です。石油・天然ガス・U235100年とはもちません、CO2の排出量制御も待ったなしです。日本のポスト近代社会はこれから数十年かけて着実に自然再生エネルギー主体のエネルギーシステムに転換していかざるを得ません。果たして再生可能エネルギーでどれだけの人類を養えるのかまだ誰もきちんとした推算が出来ていません。人口減少まで頭に置いたエネルギー政策、食糧政策、水資源/流域管理といった国土政策が、地方の自立持続と国土の保全防衛を目標にした国家戦略として論じられなければならないと思います。全部足しても1にならない0.1政策5本を進めるような心細い政治では困ります。市民も、0.1は三つ四つ足しても1にならないことを知って政治のプロポザル(マニフェストなどと云われるもの)を評価するように賢くなってきたと思います。日本人は21世紀の次のポスト近代を自ら描いて創っていかなければ生き残れない国になったことを思い起こして、みんなで考え、勉強を続けることが必要と思っています。


これまでの近代社会は、活動中心と資源(生産)域が遠く離れても高速大量輸送システム発達で情報中心と資源域の間で相互に逆クロスする勾配を持って成立していました。資源の少ない日本がエネルギー、鉱物資源を数千キロの彼方から延々と運び、製品を世界中に送り込んでその差額で高い国民生活を挙げてきました。グローバル化が極限まで進み、世界が均一化してくると長距離大量輸送に軸足を置いた産業・社会構造は経済的にも輸送路の安全保障の維持のうえでも容易ではなくなります。イギリス帝国にはじまる近代の海の国々の先進国はパワーの持続的な維持に困難があります。パックスブリタニカ、パックスアメリカナが揺らいできた先進海洋国家群が、大陸国家中国、ロシアなどの新興国のチャレンジを受けてくるようになると思います。大陸国家はドイツ帝国が大英帝国に敗れたように、歴史的な海洋国家群に太刀打ちするのは容易でありませんでした。ゴルシコフ元帥のソ連海軍は今はなりをひそめています。歴史上空母機動部隊を運用できたのは米海軍と日本海軍の西太平洋での激闘だけです。中国に機動部隊がいつできるでしょうか。その部隊は何を戦略目標にするのでしょうか。日本自身は海洋覇権を西太平洋全域に維持する必要がなければ、大きな領海の資源利用を国家目標とする自立型の海洋国家の道を平和裏に求めることになるでしょう。2050年にエネルギー自立が可能になれば、シーレーンの保護に巨大な海軍力を持つ必要も少なくなります。中国海軍の戦略が西太平洋の覇権維持などという大国の夢で無いことを祈るのみです。石油の中東からの輸送とそのシーレーン保護のための巨大な海軍力維持のための努力と、原子力発電所保持のためのリスクなどなかなか比較できない問題も様々な判断の項目に含まれるでしょう。ホルムズ海峡の紛争下に掃海艇を派遣し戦に巻き込まれる危険と、一度装荷すれば数年は運転できる原子力発電所の長期エネルギー安定確保の可能性とその採用に伴う災害リスクとどちらをとるかの議論もありうるでしょう。高い油を焼いてCO2を増やし地球温暖化ガスを増すことを原子力でとどめようと鳩山政権が考えたのはこのあいだのことです。3.11で局面が変わったことはだれしも認めることですが、自然エネルギーにつなぐまでの安定エネルギー源としての原発の選択の可能性はいかなる条件下でもあり得ないのでしょうか。素人なりに、多面的なよく磨かれた議論を聞きたいものです。


再生可能エネルギーの開発は恒常的な電源として使おうとすれば、要素技術とシステム技術両面の体系的な練磨と連続的な投資が必要なものです。電気はエネルギーの媒体でありエネルギー問題には熱需要が大きな割合を占めています。3.11以降電気の話のみが新聞放送の世界で論じられているきらいがあります。地球人類は化石燃料なしでは10億人(18世紀)を越えられませんでした。地球にそそぐ177,000TWの太陽エネルギーに比べれば、現在にお近代文明を駆動している化石・原子力エネルギーはたった12TWの一万分の一以下にしかすぎません。バイオマスは150TWあります。殆どは熱帯雨林にあり畑にあるのは12~13TWにすぎず食料をゼロにして初めて現代社会のエネルギーをまかなえます。風、水流、波、地熱、可能ならマグマの熱利用などの自然エネルギーをどこまで安定に使えるか、壮大な科学技術の努力が必要です。そのためには教育と科学・技術の継続的な大展開と巨大な資金と事業を駆動するエネルギーの投入が必要です。しっぽを巻いて逃げるようなことではなく、力を溜めて全力で次の文明に立ち向かう、尖鋭なエリート集団と力のある実行部隊が必要です。地球にやさしいなどと云う「わかったようで実は何も言っていないような」情緒的な標語を越えた冷徹な人類生存のための取捨選択と、冷徹さを包み込む隣人への心配りが共に求められていると思います。

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プロフィール
HN:
丹保憲仁
年齢:
91
性別:
男性
誕生日:
1933/03/10
趣味:
カメラ
自己紹介:
・主な経歴
 水の安全保障戦略機構議長
 日本水フォーラム副会長
 北海道大学名誉教授(第15代総長)
 放送大学名誉教授(第5代学長)
 第89代土木学会会長
 第2代国際水協会会長
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